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最終更新日:2026.08.23

【企業紹介】企業組合鷲沢風穴|自然の遺産を守り、人と人が温かく繋がる居場所へ

浜松の豊かな自然に抱かれた「鷲沢風穴(わしざわふうけつ)」。冷涼な風が吹き抜けるこの洞窟と美しい湧き水の周りには、いつも地域の温かい笑顔と会話があふれています。

単なる観光地(観光スポット)として効率や売上ばかりを追い求めるのではなく、誰もがほっとひと息つき、人と交流できる居場所でありたい。その純粋な志を掲げて施設を運営するのが、鷲沢風穴企業組合の2代目理事長渥美末夫さんです。

かつて先代たちが手作業で土を掘り起こし、地域が一丸となって切り拓いてきた歴史を受け継ぎながら、現代に至るまで、時代に合わせた新しい変化を柔軟に受け入れてきました。

今回は、地域や若い世代へとバトンを繋ぐ組合のあり方について、じっくりとお話を伺いました。

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鷲沢風穴の原点。手作業で切り拓いた地域の絆と歴史

―― 本日はよろしくお願いいたします。まずは、鷲沢風穴と企業組合の成り立ちから教えてください。

理事長: 原点は、かつてこの場所にあった岩の間から涼しい風が吹き出していたことです。もともとは近所の農家や地元の人間が、田んぼ作業の合間に涼むような小さな隙間でした。そこに洞窟研究会や探検の方々が来られて、「ここに何か本格的な洞窟があるぞ」と声をかけてくれたんです。

それをきっかけに地元の有志が集まり、「綺麗なおいしい水が出るのだから、皆に組んでもらえる場所にしよう」「ここ一体を守っていこう」と話が持ち上がりました。この場所をみんなで活かすため、市にも申請を重ね、地元住民が出資し合って企業組合を作ったのがすべての始まりでした。

―― 当時の工事は、大変なご苦労があったそうですね。

理事長: 今の様子からは想像もつかないほど、文字通りの手作業でした。昔の写真や資料を見ると、私自身も「よくぞここまでやってくれたな」と胸が熱くなります。重機も入らないような道でしたから、先代の方たちが土を自分たちの手で掘り出し、洞窟の中から岩や泥をすべて担ぎ出してきたんです。

当時の鷲沢風穴の周りは、段々になった田んぼが広がっていて高低差がありました。その田んぼを全部自分たちの手で埋めて、平らにして駐車場を作ったんです。工事には丸2年もかかりました。一切の余計な加工をせず、ありのままの自然を生かすために、みんなどれだけの汗を流したか分かりません。

行政もその熱意に応えてくれて、川沿いの石垣を築いてくれたり、立派な水洗トイレを設置してくれたりと協力してくれました。まさに地元の絆とみんなの力で築き上げた場所です。

頼れる仲間と支え合う。2代目理事長としての立ち位置

―― 先代から理事長を引き継がれた経緯と、現在の運営スタンスについて教えてください。

理事長: 初代の理事長が立ち上げから長年引っ張ってくれていたのですが、今から約4年前に退任されることになり、私が2代目として引き継ぐことになりました。当時、私はすでに76歳。「今からそんな大役ができるだろうか」と最初は大きな不安がありました。

しかし、周りの組合員や地元の仲間たちが「みんなで協力するからやってくれ」と背中を押してくれたんです。1人ではとてもできませんが、助けてくれる組合の仲間がいるからこそ引き受ける決意ができました。今でも昔の記録や手書きの資料をひとつひとつ読み返し、「先代はどういう想いでここを作ったのか」「なぜこの決断をしたのか」と、先人の志を探りながら試行錯誤を続けています。

―― 現在は若い世代や外部の方とも積極的に連携されていますね。

理事長: はい。現在、組合の役員や出資者も75歳以上が中心となり、高齢化が進んでいます。地元の中だけではどうしても手やアイデアが限られてしまうのが実情です。だからこそ、若い世代や外部の方々との繋がりに心から感謝しています。

特に最近では、鷲沢サウナを運営している若い人たちがネットやSNSで魅力を発信してくれたり、新しい風を吹き込んでくれています。今までは来られなかったような若いお客様や、遠方からの観光客まで足を運んでくださるようになりました。

ネットで見て京都や大阪、埼玉、さらには沖縄からもお客様が来られます。「そんな遠くから来てくれたの?」とこちらが驚いてしまうくらいです(笑)。組合という枠組みを活かしながら、ここを「面白い」「盛り上げたい」と思ってくれる若い人たちに、これからの運営をどんどん託していきたいと考えています。

利益や外見の効率を追わない。自然のままを守る決断と誠意

―― 企業組合として、経営や運営において最も大切にされている「軸」は何でしょうか。

理事長: 一言で言えば、目先の利益ばかりを追わないということです。会計士さんからは「事業なんだからもっとお金を会社に残しなさい」と言われることもあります(笑)。しかし、私の考えは少し違います。

ここで皆さんが預けてくれたお金や、来てくださったお客様からいただいたお金は、変に残して抱え込むのではなく、次の環境整備やお客様への還元に使おうと決めているんです。

利益を出して儲けることよりも、川や山林を綺麗に手入れしたり、来た人が安心して歩けるような遊歩道を作ったり、収穫体験ができる農園を整備したりする。自分のためにお金を遺すのではなく、未来に繋がる素晴らしい場所をそのまま次の世代に残す。組合員のみんなもその想いを理解してくれて、「何か新しい整備をやるなら気持ちよくやろう」と賛同してくれています。

―― 華やかな観光スポットを目指すのとは違うわけですね。

理事長: そうです。近隣には大規模で華やかな観光洞窟もありますが、鷲沢風穴はそうしたキラキラした観光地を目指していません。鷲沢風穴は単なる観光資源というより、地域で守るべき自然の遺産であり、人と人が温かく会話できる交流の場です。

ただ美味い水を汲みに来るだけ、洞窟を見るだけなら一回訪問して終わりかもしれません。しかしここには、「話をするのが楽しくて来ているんだよ」と言ってくださる常連さんがたくさんいらっしゃいます。

派手なアトラクションや効率を優先するあまり、そうした温かいコミュニケーションが失われてしまうのなら本末転倒です。お客様が笑顔で「楽しかったよ」「また話に来るね」と帰っていかれる場所であり続けることこそが、私たちが何より守るべき誠意であり本質的な価値だと思っています。

地域の声、子どもたちの未来を守る。

―― 地元の農産物直売や、子どもたちとの関わりについてもお聞かせください。

理事長: 秋になると、このあたりは一面がみかんの収穫期を迎えます。地元の農家さんたちが採れたての鮮やかなみかんを直売所にたくさん持ってきてくれて、売り場がみかん一色でいっぱいになります。それを地域の方や遠方からのお客様へ安く提供すると、皆さん本当に喜んで買っていかれます。

地元の農家さんにとっても成果を披露する場になり、お客様も安くて美味しい農産物が手に入る。互いに笑顔になれる循環が自然とできあがっているんです。また、お菓子作りが得意な地元の方が「ここで菓子工房をやってみたい」と手を挙げてくれて、手作りの美味しいお菓子を提供してくれるようにもなりました。

―― 子どもたちや次の世代との交流はいかがでしょうか。

理事長: 一番嬉しいのは、子どもたちの弾けるような笑顔が見られることです。毎年、愛知県の豊橋からミニバスケットボールチームのコーチが、子どもたちの親睦ドライブを兼ねて連れてきてくれます。また、地元の幼稚園や保育園の子どもたちも毎年のように遊びに来てくれますね。

暗い洞窟に入ると、子どもたちは声を上げて大はしゃぎしながら探検します。湧き水に触れて、「冷たい!」「楽しい!」と何周も走り回っている姿を見るのは、本当に微笑ましいものです。

そうやってここで楽しい思い出を作った子が、家に帰って「すごく楽しかったよ!」と親御さんに話してくれる。すると今度は、お父さんやお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんまで連れて、家族全員でリピートして来てくださるんです。世代を超えて家族の思い出の場所として愛されていることを実感するとき、この場所を守ってきて本当に良かったと感じます。

鷲沢風穴の未来へ

―― これからの鷲沢風穴を、どのような未来へ繋いでいきたいですか?

理事長: 現状維持のままでいれば、場所は必ず廃れていってしまいます。だからこそ、ありのままの豊かな自然を絶対に壊さないように守りつつ、新しい試みにはどんどん挑戦していきたいですね。

幸いにも、ここで何か新しく始めようと提案すると、組合の仲間たちは誰一人反対せず「いいじゃないか、やってみろ」と背中を押してくれます。サウナの導入やすんなりと受け入れてくれたのも、そうした温かい土壌があるからです。

今後は風穴の周りの三林(山林)をもっと綺麗に下草刈りをして、誰もが森林浴を楽しめるような綺麗な散策路を広げていきたいと考えています。また、サウナの裏手あたりには初夏になると自然のホタルが飛ぶんです。そこをもっと綺麗に整備して、誰もが幻想的なホタルの舞を楽しめるホタルの名所にしていきたいですね。

―― 理事長ご自身にとって、ここはどのような存在でしょうか。

理事長: 私自身、しばらく入院していた時期がありました。退院してリハビリを兼ねてここへ戻ってきたとき、常連のお客さんたちが「どうだ、身体は大丈夫か?」「帰ってくるのを待っていたよ」と温かく声をかけてくれたんです。涙が出るほど嬉しかったですね。

私にとってここは、家に閉じこもるのではなく、毎日やってきてベンチでお茶を飲み、来てくださるお客様と「今日もお互い元気で良かったね」と笑顔で会話を交わす、かけがえのない人生の居場所です。ここを訪れるすべての人にとっても、ほっと落ち着ける場所であり続けられるよう、できる限りの整備と恩返しを積み重ねていきます。

―― 最後に、この記事を読んでいる読者の方へメッセージをお願いします。

理事長: 鷲沢風穴は、豪華なアトラクションや飾られたおもてなしがあるわけではありません。ほとんど加工をしていない、自然そのままの空気と風景が広がっている場所です。

ここには湧き出る冷たくて美味しい水があり、洞窟から吹き抜ける心地よい天然の風があり、そして温かい人の会話があります。

ぜひふらっと息抜きに遊びに来てください。美味しいお茶と笑顔をご用意して、私たちが温かくお迎えいたします。大自然に包まれながら、ゆったりとした時間を楽しんでいただけたら、これ以上の喜びはありません。

インタビューを終えて

売上ばかりが追い求められる現代のビジネスにおいて、鷲沢風穴企業組合が大切にしている自然と人の温もりを守る運営スタイルは、深い説得力と温かさに満ちていました。

お金を遺すのではなく、みんなが笑顔になれる場所として還元していく

そう語る理事長のしなやかな覚悟と、先代たちが手作業で耕してきた土地を慈しみ、若い世代や新しいアイデアを柔らかく受け入れる実直な姿勢こそが、遠方からわざわざ訪れ、地域から信頼を寄せられる最大の理由です。

喧騒を離れて豊かな自然に癒されたい。飾らない温かい会話に触れて心からほっとしたい。そんな方は、ぜひ一度、鷲沢風穴へ足を運んでみてください。

そこには、あなたの居場所をいつでも笑顔で整えて待ってくれている、どこか懐かしく心強い情熱があります。

この記事を書いた人

伊藤麗生

伊藤麗生
イトウ

(株)BELIFE 営業・オウンドメディア担当しています。 小学校から大学までサッカー一筋で打ち込み、全国高校サッカー選手権大会への出場を果たすなどプロを目指して活動。社会に視野を広げる中で起業を志し、大学時代に個人事業主としてアウトドアサウナを開業。現在は温浴施設の運営を手がけながら、温浴向けデバイスの開発・販売に向け精力的に活動中。スターバックスなどの飲食店でのアルバイト経験も併せ持ち、スポーツ・店舗経営・プロダクト開発・サービス現場という多角的な視点を活かした、深みとリアリティのある記事を執筆する。